某大手損害保険会社の自動車保険部門サービスセンター(SC)で働いていた時の備忘録。
仕事で得た知識を書き留めています。
自動車保険の補償内容、特約について。
交通事故の示談代行の実務について書いています。

自動車事故部門の仕事

自賠責と複数の加害者

投稿日:2009年1月26日 更新日:

自賠責保険(自動車賠償責任保険、強制保険)についてのお話を、共同不法行為の面からしてみます。
自賠責の概要についてはこちらの記事を、共同不法行為についてはこちらの記事をご参照いただければと思います。

自賠責保険は任意保険の対人賠償保険、人身傷害保険とはかなり考え方の違う保険です。
自賠責、独自の定義としては「他人」を死傷させた場合に保険金を支払うというもの。
自賠責上の「他人」は、車の運転者、車の所有者、運行供用者、以外の人すべてをいいます。
運転者と所有者はわかるとして、運行供用者とは正式な言い方をすれば「自己のために自動車を運行の用に供する者」です。
私は自賠責の研修で、ここで意味がわからなくなってこんがらかりました。(苦笑)
運行供用者の具体例は、レンタカー会社とかタクシー会社とか、車を走らせて利益を得ているところ。また、仕事中に(会社の車で)発生した交通事故について、運転者が勤務している会社も入ります。
運行供用者には友人の車を自分の用事のために友人に運転してもらっていた場合も入るのですが、その用事の程度などにより判例も割れているので、より詳しく調べたい場合は弁護士や交通事故の解説サイト、法律サイトを探してみて下さいね。
自賠責ではとにかく、「他人」の死傷について賠償します。
これを前提として、ここから表題の複数の加害者がいた場合の自賠責の請求についてです。
複数の加害者が連帯して責任を負う場合を共同不法行為といいます。
共同不法行為は物損では実際に生じた損害額を、それぞれの加害者が自分の過失割合に応じて支払います。支払われるのは実際に被った損害額そのものだけです。
ところが自賠責では、共同不法行為、複数人の加害者が自賠責が適用になる事故を起こした場合、被害者はそれぞれの自賠責に重複して請求ができるのです。
つまり加害者の数だけ自賠責は掛け算されて、被害者への支払額が多くなるわけ!
ここで問題になるのが被害者、すなわち「他人」の定義と過失割合です。
運転者や所有者、運行供用者で「他人」にあたらない場合、お互いに過失割合が生じる交通事故では、互いに相手の自賠責に請求をすることになります。
自賠責も過失割合による減額はありますが、7割以上の場合にのみ減額されるというもの。物損みたいに細かくやりません。
自賠責での「他人」になる人、歩行者などならわかりやすいです。
もし、複数台の車が関わる事故に巻き込まれて死傷したら、関わった車の自賠責、すべてに重複して請求が可能です。
問題なのが「他人」の同乗者。
その自動車の運転者でもなく所有者でもなく、運行供用者でもない同乗者は、交通事故の相手の自賠責はもちろん、乗っていた車の自賠責にも請求が可能です。
ところが、過失割合が100:0、10対0と一方に全面的な責任があるとされた事故では、被害車両には責任がないから賠償義務もなく、自賠責も適用になりません。
共同不法行為が成立しないということです。
同乗者が加害車両、被害車両どちらに乗っていたか問わず、自賠責は加害車両からしか出ません。
加害車両に任意保険が契約されており、じゅうぶんな賠償を受けられればいいのですが、自賠責のみしか加入していない場合は賠償が不足してしまうことが考えられます。
自賠責は過失割合も物損とは違い、保険会社を通した示談ではなく自賠責調査事務所というところが認定します。
普通に考えれば100:0の被害者であれば、全面的な賠償を受けられるはずが、自賠責に限っては共同不法行為との関係で必ずしもそうではない。という事情が発生しえます。

実は、こういったケースはこのブログ「示談までの道」へコメントを下さった方から知りました。
自分はただ同乗していただけなのに、100:0の交通事故と認定され、加害車両に自賠責しか加入されていなかったため、ちゃんとした賠償が受けられない、というお話がされていました。
保険は契約であり、種々の規約、約款に掲載される事柄にのっとって、言い換えれば拘束されて履行されます。
規定、規約には解釈の余地があり、それで弁護士に頼んだり裁判に訴えることで自分の主張が通る場合もあります。
裏を返せば、何も知らないまま、相手方に言われるがままに示談をしてしまうのは危険なことです。
たとえ相手が保険会社でも、賠償を必要最低限にしようとする傾向は否定できません。
交通事故は事後処理が複雑で、一般の方は困惑することが多いと思います。
交通事故の示談は、知識がいちばんの武器になります。
たとえ納得のいく示談に至らずとも、その根拠くらいは知っておかないとやり切れません。
このブログは、法律家でも弁護士でもない、一介の元保険会社員(しかも平社員)のつたないブログです。
でもそれだけに、難しい専門的な法律の解説サイトなどよりは読みやすく、より詳しい知識の入り口になればと思っています。
「示談までの道」が、交通事故の当事者の方々の求める知識が見つかるよう、ご自身でも色々調べていただくきっかけとなれば幸いです。

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